消しゴムかけ忘れ

ノートの隅の忘れ物

そういうやつ、の後編

こんにちは。

ショータローです。

この前書いた「歪な出会いとか、そういうやつ」の続きです。この話はこれで終わりです。長々すみませんでした。

 

 

とある動画で「TOGENKYO」を聴いた。それが始まりだった。「痛いですか  今の判断は」のたったワンフレーズが、私の心に引っかかって離れなかった。

そこから曲を探して聴いて、公式サイトを調べてWikipediaを読んでまた別の曲を聴いて、そうして好きになるのに時間はかからなかった。

ミュージックビデオを色々漁っている最中にTHE ORAL CIGARETTESにも出会った。「ワガママで誤魔化さないで」。当時はこの2バンドが事務所の同期だと知らなかったので、方向性の違う2バンドを好きになっているな とだけ思っていた。

そしてまた、同時期にスタートしていたはずの熱はこの頃ORALのほうに傾いていた。所謂ロックバンド然とした、多少強引な牽引力とバッチバチに決めたビジュアルに惹かれていた(後者は今もだが)。

反対に、フレデリックのことは宇宙人か何かだと思っていた。曲からもミュージックビデオからも人間味を汲み取れなかったので、「本当に生きていて感情があるのだろうか」などと考えていたこともあり、たぶんきっと、バンドではなく曲単体を見ていた。

YouTubeにアップされている動画の中でとりわけ刺さったのが「シンセンス」だった。神戸ワールド記念ホールのライブ映像に、わたしは一瞬で恋に落ちた。恋より眩い何かだった。

自分の目で見てみたくなった。あの宇宙人のような彼らに、会ってみたくなった。

 

年は明けて2019年の6月。

邂逅からおよそ8ヶ月が経ったある日、何気なく眺めていた公式サイトの公演情報。

"MASH A&R presents  MASHROOM 2019”。

直近でやる予定の公演だという理由で詳しく見てみただけのそれが、運命によく似た偶然としてわたしの元へ舞い込んできた。

好きになった2バンドがいっぺんに見られるというチャンスを逃すわけにはいかず、初めてイープラスとFamiポートを使って、8月14日を待った。ちなみにこの時点でもこのライブが事務所のイベントだということには気付いていない。


当日。

勝手が分かっていない催事に誰かを連れて行くのは気が引けたのと、知人と芸術鑑賞をするあの気まずさが苦手なのとで、一人で行った。

 

物販列に並んでいる最中に雨に降られたことも、缶バッジを二つ買ったのがダブって近くにいる人に交換してもらったことも、フードが美味しかったことも、ロッカーの位置を間違えて100円を無駄にしたことも、ドリンクは公演後でも買えることを知らずに開演直前に焦って飲んで頭痛に襲われたことも、何もかも覚えている。

それでもライブ本編の記憶は途切れ途切れで断片的だ。初めて自分から聴きに行った生の音楽たちは眩しすぎた。何も知らず何も分からないままに手を挙げて、手を叩いて、一緒に歌って飛んで跳ねて、脳髄をしっちゃかめっちゃかにした。

だからあんなにライブ映像が刺さった「シンセンス」はそれと認識できなかったし、「NEON PICNIC」は新曲だと思っていたし、「オドループ」は歌詞を覚えていなくて一緒に歌えていなかったしで、今考えるとそれはそれはもう散々な記憶だった。最近調べ直したらフレデリックは此処で「VISION」と「イマジネーション」を初お披露目していたらしい。「イマジネーション」はまだシンガロングをしたので少しだけ記憶があるが「VISION」はこれまた全く覚えていない。

 

初めて近くで見たバンドたちは皆さまざまにきらきらしていた。バラードが流麗なバンドもいた。感情に任せた歌が響くバンドもいた。色んな音を見た。色んな形を知った。誰かの愛も誰かの涙も誰かの笑顔も、たくさんたくさん聴いた。

たのしい世界だと思った。

 

MASHROOM2019が終わってからも余韻が1週間ほど続き、生活に支障が出る一歩手前だった。長期休みの内で良かったとずっと思っていた。

それから、フレデリックの4人のSNSを調べて見続けた。意外と全員人間らしくて驚いた記憶がある。密やかな愛はゆるやかに積もっていき、その力はわたしをファンクラブに入会させ、Twitterの新しいアカウントまで作らせた。そして今に至る。

 

大変長々と語り倒したのでこんなものをここまで読んでいる物好きな人はそうそういないと思うが、事の顛末はこんなところ。きっとよくあるハマり方だし、とても劇的かと問われると必ずしも首を縦には振れないけれど、それでもわたしにとっては唯一の偶然で、確かな分岐点だった。

 

いつか訪れる愛の衰退を恐れながら、わたしは今日も愛に鍵を掛けずにいる。届いてほしいとは思わないが、それがわたしにできる精一杯の等価だと思っている。

 

20200517