消しゴムかけ忘れ

ノートの隅の忘れ物

私は踊りたかった

ありがたいことに自分の身体そのもののことは今でこそ憎んではいないが、如何せん運動、こと体育の授業に関してはその愛すべき要素全てが裏目に出る最悪の仕様に仕上がっているのが私という存在だ。
左利きだった名残を唯一感じられる、少しだけ便利な愛しい交互利きは歪で誰にも合わせられない悪癖と化す。人より多少高い身長も多少長い手足も、ただそこに在るだけで益にはなり得なかった。幾度も繰り返す失敗に向けてくれた周りの生温い目線と声援を、どうか叶うなら何もなかったことにしてくれと下唇を噛んで祈ったことを、ずっと覚えている。

 

そんな中、何の因果か成人してからというもの「踊る」がついてくる生活を送っている。
別に毎日何かしら踊ることを強制されていたりそういう職業に就いたりしている訳ではなく、思いがけず生活や好きなものの中のすぐ近くにそれがあるというだけだ。
最近気になるアイドルは組体操みたいなダンスばっかりだし(それが面白いながらにかっこいいから見ているんだけど)、そもそも踊ってない夜は気に入らない。
私は踊れない。踊れないとわかっていながら、いつもそばにいる。

 

努力しない自分の癖を思い出した。

「似合わないかもしれない」、それだけの理由にもならない理由でたくさんのことを諦めてきた自分を思い出した。

いつもそうだ。やり切る前から、やってみる前から思い込みで動けなくなって逃げる。
誰かに見られた時にどう言い訳しようかなんて、やる前から考えても仕方なかったのに。声に耳を傾けたところで、誰も責任を取ってくれやしないのに。

 

堂々としていたかった。
指されていたかもしれない後ろ指すら引っ掴んで、笑いたかった。

舞台に立って、たったひとり自分のためだけに使われる明かりを知りたかった。

苦しみながら、狂いながら生み出すものには勝てないと思い続けてきた。
おかしくなりたかった。気が狂れてでも、表現を恐れずいたかった。これが私だと、自分自身だけで証明したかった。生きていたかった。

今から変われるとも思えなかった。変わろうとも思えなかった。

 

それでも。

私は踊りたかった。